在任5年以下で退職した役員の役員退職金に対する2分の1課税の廃止

税理士 兵頭始 著者:兵頭始税理士事務所 税理士 兵頭始
平成25年1月以降の役員退職金
(正確には、1月以降に支給金額が確定した役員退職金)から、役員在任5年以下で退職した役員に支給した役員退職金に対して課される所得税は、「課税標準を2分の1にする
優遇措置」が適用されなくなります。

これによって、実際の税金がどのくらい違ってくるか計算してみます。

退職金は給料や不動産賃貸などの他の所得と違って、合算して税額を計算することはせず、退職所得単独で税額を算定します。

これだけでも優遇されているのですが、更に税率を乗じる段階で「課税標準を半分にする」優遇措置が採られています。

(例)役員在任2期4年で退任し、役員退職金800万円を支給された場合

【平成24年まで】
8,000,000 – 400,000 × 4年 = 6,400,000
6,400,000 × 1/2 = 3,200,000

(所得税・復興特別所得税)
3,200,000 × 10%- 97,500 = 222,500
222,500 × 1.021 = 227,100

(住民税)
3,200,000 × 10% =320,000

(合計税額)
227,100 + 320,000 = 547,100

【平成25年から】
8,000,000 – 400,000 × 4年 = 6,400,000

(所得税・復興特別所得税)
6,400,000 × 20%- 427,500 = 852,500
852,500 × 1.021 = 870,400

(住民税)
6,400,000 × 10% = 640,000

(合計税額)
870,400 + 640,000 = 1,510,400

課税標準を2分の1とする場合と、2分の1をしない場合とでは、963,300円の差が出ます。
(1,510,400―547,100=963,300円)

この改正(在任期間5年以下の役員退職金は、課税標準を2分の1とする優遇措置はとらない)は、天下りの公務員が月額報酬を低く抑えて短期間役員として在任し、本来月額報酬として受け取るべき報酬を退職金に上乗せして退職金として 受け取っている実態に着目して、実施されることになったものです。

つまり、発想は「財源の確保」ではなく、公務員が立場を利用して「合法的な課税回避行為」をすることを止めさせることにあったわけです。

しかし結果は、天下りの公務員だけでなく、このようなこととは無縁のはずの一般の会社の役員退職金も対象に取り込まれてしまいました。

総務省の調査「民間企業における退職給付制度の実態に関する調査(平成21年度)」によると、平取締役(専務や常務でない取締役のこと)の平均役員在任期間は、5.7年となっています。

ということは、50台半ばを過ぎてから部長兼務の取締役になり、2期(4年)を務めて退任する人が相当数いると推定されます。

現実的には、この税制改正?による税収増のかなりの部分は、本来この改正の「対象とすべきではない」一般会社の役員退職金から得られることになるのではないでしょうか。

つまり、「以前からあった天下り公務員の退職金に対する批判」を税制調査会と財務省が利用して、一般会社の役員退職金をも歳入源として取込んだということではないでしょうか。