中小企業にとってまだまだ利用しにくい研究開発

税理士 兵頭始 著者:兵頭始税理士事務所 税理士 兵頭始
(一つのテーマに一か月以上従事の要件)

研究開発税制(税法上の言い方は「試験研究税制」)とは、企業(個人・法人を問いません)が行う研究開発活動を促進するためのいくつかの措置を総称した用語なのですが、通常は、研究開発税制(試験研究税制)と言うと、研究開発活動にかかった費用の10%前後の金額だけ法人等を安くする措置を指します。

これを、
「試験研究費の総額に係る特別控除」と言います。

特別控除額(減税額)

資本金が1億円以下の会社     その年度の「試験研究費」の12%
(但し、その年度の法人税額の30%が限度)

資本金が1億円を超える会社    その年度の「試験研究費」の8~10%
(但し、その年度の法人税額の30%が限度)

「試験研究」と一口に言うと、博士号を持った科学者や技術者がしているような高度な研究や、大企業が研究所で研究開発の専門職の社員にさせているような研究開発をイメージしがちですが、税額控除制度の対象となる試験研究は、これらの研究から、町工場で行っている製品や加工技術のちょっとした改良までを含む非常に範囲の広いものです。
また、
研究開発専門の社員がいない会社でも、この制度の適用は受けられます
中小企業では、製品の製造や加工に携わっている社員が、必要に応じて新製品・新技術の開発や既存の製品・技術の改良活動をするのが普通ではないでしょうか。

年商10億円クラスまたは年商10億円に手が届く製造業であれば、必ずと言ってよい程、今述べた税額控除の対象となる「試験研究」をしていると思います。
この減税制度の利用状況について国が行った調査がありますので、少し加工してご紹介します。

研究開発減税(「試験研究費の総額に係る税額控除」)の利用状況

(国税庁 平成22年度会社標本調査「税務統計から見た法人企業の実態」より)
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この減税制度を利用している会社の60%以上は、資本金1億円以下の会社です。
しかし、金額で見ると、研究開発減税総額の95%は資本金が1億円を超える会社が享受しています。

減税の恩恵の95%を資本金が1億円を超える会社が享受している理由の一つは、減税を受けるための要件が、「中小企業にとって利用しやすいものになっていない」ことです。

「験研究費の特別控除」の対象となる研究開発費とは、研究開発のためにかかった、材料費、人件費、経費と、研究開発を他の会社などに委託した場合の委託研究費です。

これらの、材料費、人件費、経費、および委託研究費のなかで、研究開発をする殆どの企業(委託研究に依存している場合を除きます)にとって中心となるのは、人件費です。

研究開発を外部に委託している場合、その「委託研究費」は特別控除の対象となるのですが、中小企業が他の会社に主たる研究開発を委託することは、グループ会社間での委託研究を除いてはあまりないことです。
中小企業に限らず研究開発減税(試験研究費の特別控除)の中心になるのは、人件費だと思います。

ところが、研究開発減税(試験研究費の特別控除)の「対象となる人件費」は、研究開発だけに従事する社員の人件費に限られていました。

平成15年、中小企業庁の働きかけにより研究開発専門の社員でなくても、一つの研究開発テーマに1か月以上(実働で20日以上)専ら従事した社員がいる場合には、その社員の人件費のうち研究開発に従事した時間に相当する金額を、研究開発減税(試験研究費の特別控除)の対象とすることが出来るようになりました。
これは、中小企業にとって画期的な「改正」でした。

このことによって、中小企業の研究開発減税額は大きく伸びました。
しかし、これだけではまだまだ不十分です。
いわゆる「研究開発型の中小企業」でなくても、研究開発活動を行っている企業は数多くありますが、「一人の社員が一つの研究開発テーマに1か月以上(実働20日以上)従事」するとなると、当てはまる中小企業はかなり少なくなると思います。

この要件を満たそうとすると、

「数人でプロジェクトチームを編成して行うことが望ましい試験研究を、1人の社員で行う」

といった無理をすることになるのではないでしょうか。
平成25年度の税制改正で研究開発費税制の拡充が挙げられていますが、ぜひ人件費控除の要件を緩和してほしいものです。